シミズの人生とかナンパとか

人生とか、ナンパとか

笑いのカイブツ(作:ツチヤタカユキ)を読んで

 ※ネタバレあります

 

筆者は高校一年生のとき、テレビの大喜利番組に投稿を始める。
それは、選ばれば審査員から面白さに応じた評価が貰え、最高評価を取り続けることによりレジェンドという最高位の称号が与えられる。
俺も当時、この番組は観ており、投稿もしていたが一切読まれることはなかった。

筆者は憑りつかれたようにのめりこみようやく21歳でレジェンドの称号を手にする。
その後、筆者は吉本興業の劇場作家になるのだが、いきなり劇場に押し掛けたというのだから大胆な行動力だ。
(恐らく本来は作家養成コースに通うなどするのだろう)
支配人に認められて晴れて作家になるのだが、そこでイジメにあってしまう。
結局、辞めてしまうのだが、事情を知らない支配人に理由を聞かれても、すみませんとしか言えない程、他人と普通に喋れなくなってしまっていた。
”人間関係不得意”と本のカバーに書かれており、作中は死(自殺願望)と隣合わせになるほどドス黒い筆者の劣等感が溢れている。

作家を辞めた後、ラジオのハガキ職人としてネタの創作に没頭する。
並行してアルバイトをするも、例の人間関係不得意によりことごとくクビになる描写がある。
肉体労働・ホストクラブ・TSUTAYA松屋・バー・コンビニ・居酒屋・焼肉屋・フランス料理屋・etc・・
日陰側の人間が避けそうな仕事も含まれており、ジャンルを問わず色々経験しているのが面白い。
クビになっても直ぐに新しいバイトを探すバイタリティは心から尊敬する。
俺なら、これだけ人格否定をされたら立ち直れない。
筆者は自分のお笑いに対する情熱だけにはプライドを持っている。
笑い以外は捨てても構わない覚悟でいる。

その後、24歳で上京してある芸人の作家になる。
単独ライブの作家をやってほしいと言われたのがきっかけとのことだが、その辺の細かい描写は無く、最後までその芸人を特定できる情報は一切でてこない。
まぁ分かる人には分かるだろうけど・・・
単独ライブの作家以外に仕事は一切なく、アルバイト生活を余儀なくされて、年下に怒られながら働いているのが自分と重なり辛かった。
東京でも頻繁にバイトをクビになったり、何度も大阪に帰ったり、腸が裂傷したり、やはり苦しい現状は変らないようだった。
社会不適合者の筆者にとってはお笑いだけが存在理由。
なのにお笑いの仕事は全くない。
絶望の描写がひたすら続く。

お笑いを辞めることを決心して”あの人”と記されている、ある芸人にラインを送る。
すると、メッセージが返ってきて、そこには筆者が生まれて初めて自分を誇らしく思えるような言葉が書かれていた。
この絶望の淵にいる青年を救った言葉とはどんなものなのだろう?
具体的な内容は一切書かれていない。

大阪に帰り、27歳。つまり今の俺と同じ年齢。
バイトをしながら、最後の希望と見定めて応募した落語の台本コンテストに落選してしまう。

本書に何度も登場する”カイブツ”。
それは、お笑いだけに生きてきた筆者の魂。
お笑いを辞めたのにも関わらずカイブツは筆者の目の前に居続けた。
筆者は最後にそのカイブツを遺書として書くことを決めて、そうして出来たものがこの本であった。

圧倒的な負の力。圧倒的な絶望のエネルギー。

底辺で生きる痛々しい表現が身に染みる。

これは分かる人にしか分からないだろう。

一字一句を全て嚙み締めた。

自分と同じ絶望を抱えた人間がこの世界にいる。
俺は読みながら安堵感と情けない気持ちが入り交じった感情が込み上げてきた。
同じ日陰の人間がいて安心する一方で俺はこの人の100分の1も頑張っていない。
この人のように確たる芯を持って生きられていない。
同じ年齢でも、人生の質は確実に劣っている。

この本は、恵まれた環境に生まれた人、日頃幸せを感じながら生きている人、神様に与えられた才能を持っている人、挫折を知らない人、落ち込んだ時に「頑張れ」の励ましで立ち直れるような人には理解し難いと思う。
逆に言うと、いま孤独を感じている人は救われるのではないだろうか。